最終更新日: 2015年04月02日
記者: 具志林太郎
川島先生:以前は、アトピー性皮膚炎は子供の病気と言われて、小学校高学年から中学に入るころには治る病気でした。ところが、20年位前から高校生や大学生になっても、あるいは一旦治ったアトピー性皮膚炎が大人になってぶり返す例が増えてきました。
このように大人のアトピー性皮膚炎は増えてきており、またしばしば難治であり、体全体に拡大する例や、特に顔面の赤みがひどくなる例が目立ってきました。
その原因はさまざま言われており、ダニやほこりなどの環境問題、学業・仕事のストレス、人間関係などが挙げられていますが、明確ではなく複合的な要因が考えられます。
また、ステロイド外用剤に対する誤解から、使用するのに恐怖心を抱く患者さんが増えて、ステロイド治療を拒否して十分な治療を行っていない患者さんが重症化している場合も多くみられます。
川島先生:アトピー性皮膚炎はさまざまな要因が重なって起こりますが、遺伝的素因があることも間違いありません。その遺伝的素因は、「アレルギーを起こしやすい」素因と、「皮膚が乾燥しバリア機能が低下している」という、二つがあります。
よってその対処としては、アレルギー一辺倒の治療ではだめで、皮膚素因に対する治療、すなわち皮膚の保護も必要です。
もう一つの問題は、アトピー性皮膚炎は本来痒い病気ですが、痒いところを引っ掻くということは大変心地よいものですので、「掻けば悪くなることを頭では理解していても、なかなかやめられない」ということです。時には、痒いためではなく、ストレスを解消するために「痒くないのに引っ掻く」という行動が生じることがあり、そのためにさらに重症化している場合も見られます。
川島先生:まずは炎症を抑える治療を十分に行うことです。炎症を抑えるために使用される薬剤の中で、効果的でかつ安全な薬剤はステロイド外用剤とタクロリムス外用剤の二つです。
ガイドラインに示された使用法に則って治療してくれる皮膚科専門医のもとで、これらの外用薬できちんと炎症を抑えることが第一です。炎症が治まれば、痒みは平行して減ってきますが、少しでも和らげるために抗ヒスタミン剤の内服を併用します。炎症が治まった皮膚においても皮膚素因は残っていますから、保護のために保湿剤やワセリンの使用を継続する、いわゆるスキンケアも大切です。
さらに難治な例では、十分に患者さんの話しを聞くことで、「ストレス解消のために引っ掻いていることはないか」を確認します。そして、ストレス解消の手段を別に見つけるようにアドバイスしてみます。患者さんとの対話が十分にできると、医師への信頼感も増して、医師の提供する治療をきちんと行ってもらえるようになり、見違えるような効果が表れることをしばしば経験します。
川島先生:顔や頭は、ほこりにさらされる場所であると同時に、手で触りやすい場所です。我々だって、困って考え込んだときには顎に触ったり、頭を掻いたりします。必ずしも痒くはないのにそうします。アトピー性皮膚炎の患者さんはもともと痒いので、ストレスがかかるとより頻回に触ります。その刺激のために顔や頭に湿疹がひどくなりやすいのです。
それと、顔では、ステロイド外用剤を長期に使用すると血管が浮いてくる副作用が出てしまうことがあります。そのための赤みも混じってくることがあります。またタクロリムス外用剤は、顔の症状に高い効果を示しますが、一方で刺激が出ることがあり、嫌がる人もいます。そこで、刺激が少なく炎症を十分に抑えてくれる外用薬の登場が待たれます。
川島先生:先ほどの顔の外用薬への期待もありますが、注射で使用する生物製剤という薬剤で、炎症を起こしている物質(サイトカイン、ケモカイン)を働けなくしてしまう治療法が、皮膚病の一つである乾癬(かんせん)という病気に使われはじめ、びっくりするような効果がみられる例が出てきました。
これと同じような薬剤が、アトピー性皮膚炎の治療にも使われるようになる日も近づいてきています。